なぜシンプルに生きるのか|1日に3万5千回の決断が私たちを疲れさせている

朝、目を覚ましてから眠りにつくまで。「何を食べるか」「どの服を着るか」「誰と話すか」。私たちは気づかぬうちに、たくさんの判断を積み重ねています。

時には朝のニュースを眺めながら、すでに疲れを感じることもあるのではないでしょうか。それでも、一日をなんとか乗り切っている。

一説によると、私たちは1日におよそ3万5千回の意思決定をしているといわれています(1)。その積み重ねが、少しずつ集中力や気力を削っていきます。

SNSやネットニュースなど、情報があふれる時代では、知らず知らずのうちに数えきれない選択を重ね、気づけば心が疲れている。だからこそ、立ち止まって「選ぶ力」について考え直す必要があります。

なぜ今、“選ぶ力”が必要なのか

情報が増えるほど集中できなくなる理由

スマートフォンを開けば、ニュース、動画、SNS。私たちは一日に数千件もの情報を目にしているといわれます。

情報が増えるほど便利になる一方、脳は常に切り替えを強いられます。

スタンフォード大学の研究では、タスクの切り替えの際に「アテンション・レジデュ(attention residue)」という思考の残りかすが蓄積し、集中力が落ちることが報告されています(2)。メディア・マルチタスクの多い人は、注意力や記憶力が低下する傾向も指摘されています(3)。

通知、メッセージ、SNSの更新——。反応し続けるうちに、“考える前に動く”習慣が身についてしまうのです。

比較とSNSが生む「満足の欠乏」

SNSには、誰かの成功、旅行、美しい写真が並びます。それらは刺激的ですが、同時に心を静かに消耗させます。

心理学者レオン・フェスティンガーの「社会的比較理論」によれば、人は他者との比較を通して自分の価値を判断しようとする傾向があります(4)。しかしSNSに並ぶのは、他人の“良い瞬間”ばかり。

比較が続けば、自己評価は揺らぎ、満足よりも欠乏が増えていきます。

意思決定の多さが心を摩耗させる

選択肢が多いほど迷いやすくなる。心理学では「選択過多(choice overload)」と呼ばれる現象です。

ジャムの品揃えを用いた有名な実験では、24種類よりも6種類の方が購買率が高かったという報告があります(5)。

判断を繰り返すと、脳は「決断疲労(decision fatigue)」に陥り、後の判断の質が低下することも研究で示されています(6)。

朝は慎重に選べるのに、夜になると「なんでもいい」と感じる——そんな経験は、この疲労の表れかもしれません。

シンプルとは「判断のノイズ」を減らすこと

“シンプルに生きる”とは、モノを減らすことではありません。それは、脳に届く「判断のノイズ」を取り除くことです。

スティーブ・ジョブズが毎日同じ服を着ていたのは、服選びに使うエネルギーを節約し、創造的な判断に集中するためだったと言われています。

選択の数を減らすことは、自由を失うのではなく、本当に大切な判断に力を使うための「再配分」です。

“減らす”ではなく“選ぶ”。それが Smart Simple Lab が考える「シンプル」の本質です。

科学が示す“選択の最適化”

脳には、一日に使える意志力の量に限りがあります。ロイ・バウマイスターの研究では、意志力は筋肉のように使うほど疲労し、自己制御力が低下することが示されています(6)。

また、選択肢が多いほど後悔が増えやすい。この現象を心理学者バリー・シュワルツは「選択の逆説(The Paradox of Choice)」と呼びました(7)。

“選ぶ回数を減らす”ことは、“選ぶ力を守る”ことに直結するのです。

“選ぶシンプル”を実践する3ステップ

  1. スマホの通知を減らす
    通知を10件減らすだけで、注意の切り替えは大幅に減ります。ある研究では、通知をOFFにしたグループの方が集中時間が長く、ストレスが低かったと報告されています(8)。
  2. 1日1アイテムを手放す
    これは「減らすため」ではなく、「選ばない時間」をつくる行為です。手放す習慣は、自分にとって必要なものを見直す訓練になります。
  3. 夜1時間の“情報デトックス”
    寝る前にスマホを見ないだけで、翌朝の思考がクリアになります。情報を遮断する時間は、脳の整理と回復に大きく役立ちます。

“選ばない自由”が未来を軽くする

“選ばない”とは、諦めではなく自由です。それは、他人の基準から離れ、自分の基準に戻るための静かな選択でもあります。

今日、何かをひとつ「選ばない」ことで、明日の自分に余白が生まれる。選ぶ力を取り戻すこと——。それが、生き方をシンプルにする第一歩です。

参考文献

  1. Wansink, B., & Sobal, J. (2007). Mindless Eating: The 200 Daily Food Decisions. Environment and Behavior, 39(1).
  2. Leroy, S. (2009). Attention residue when switching tasks. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2).
  3. Ophir, E., Nass, C., & Wagner, A. D. (2009). Cognitive control in media multitaskers. PNAS, 106(37).
  4. Festinger, L. (1954). A theory of social comparison processes. Human Relations, 7(2).
  5. Iyengar, S. S., & Lepper, M. R. (2000). When choice is demotivating. Journal of Personality and Social Psychology, 79(6).
  6. Baumeister, R. F., Vohs, K. D., & Tice, D. M. (2007). Strength model of self-control. Current Directions in Psychological Science.
  7. Schwartz, B. (2004). The Paradox of Choice. HarperCollins.
  8. Mark, G., Voida, S., & Cardello, A. (2012). An empirical study of work without email. Proceedings of CHI 2012, 555–564.

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